桜川ピクニック(川端裕人)

桜川、といっても茨城県の桜川市とは関係ない、たぶん。この作者の子育て系その他の作品でよく出てくる地名だが、河川から現在地を表記するという逆転の発想の紹介ともいえる作品、「川の名前」でも出てきていて、そこでは桜川は野川から分岐している。つまりどうやら仙川がモデルと見てよさそうで、地域としては世田谷あたりということになる。ちなみにその「川の名前」のあとがきで桜川は架空のものと書かれていたのだが。
もう少し細かく書くと、茨城県桜川市が合併で誕生したのは2005年10月。一方この「桜川ピクニック」の単行本の奥付は2007年3月となっているので、一見桜川市より後のようだが、初出一覧を見るとラストの書き下ろし以外は2001年8月から2005年3月にかけて雑誌掲載されている。この時系列から見ても茨城の桜川とは無関係と見ていいだろう。

ちなみに地名でいうなら大阪の千日前線にも桜川駅があるが、道頓堀や大阪ドームが近い場所が舞台ということはますますないであろう話なのでそれこそ関係ない。
どうでもいい前置きが長くなったが、今回この本は作者の川端氏からご恵送いただいたもの。氏のツイッターでゆるく募集されていたこのプレゼント企画に応募したところ、セレクトされてお送りいただいたのがこの本。しかし実はこの本も子育て系として既読だった。ただ、この自分のブログには記事は書いていなかったようで、応募時にもレビューのリンクはなかったので、おそらく、ではこれもぜひ、と選んでいただいたのだろう。手持ちであったわけではないのでダブったわけでもなし、せっかくなので再読。
再読してみて、そうだったのか、と思ったのはまず帯の背の部分に「傑作育児短篇集」と銘打ってあったこと。これは知らなかった。この本のキャッチはそうなるのか。今ならさしづめ「イクメンたちのそれぞれ」だかそんな感じのキャッチになりそうだ。そう、初刊行から5年、社会はおそらくそのときよりも育児にかかわる父親という存在には寛容にはなってきているはず。そういう意味では氏の他の育児系も含めてもっとメジャーになっていてもよさそうなものだが。その後文庫化されたこの作品もPHP文芸文庫というレーベル自体がマイナー。単行本は文藝春秋なのに文春文庫からは出なかったのか。

構成自体は6編の短編からなる。それぞれ全然別の主人公かと思って読んでいると中盤からかぶってくる。そして唯一中央線沿線と実在の地名が並んでいた通信社カメラマンが引っ越してきて同じ保育園に通っていると最後の書き下ろし作品で明かされている。それだけでもつながった感はあるが、同じ園にはいたがクラスは違ったらしいパンクな親子たちも同じ場に居合わせていて、さらに話の中で園に男性保育士が来たと別作品(みんな一緒にバギーに乗って)へもリンクしてきている。
「ふにゅう」あらため「お父さんといっしょ」と合わせて主要登場人物の表でも作って再読してみるのもいいかもしれない。子どもの名前、夫婦の名前とあだ名くらいをメモしておいて読み直せばリンクはありそう。
本自体は同じものでも初読のときと今回の再読で大きく異なるのが自分の立場。前回は自分の子どもはいない時に読んだが、今回は3歳と1歳の二児の父親という立場。そうなると180度変わってきそうだが、意外にもそれほどあるあるネタばかり、ということもなかった。作中の父親たちに共感度は多少は高まったようにも思うが、どちらかというと子どもの描写に納得する部分が多い。これは描かれている父親の職業などがかぶらないとそれほど親近感が湧かなくても、子どものいいそうな言葉や態度はどこも似たようなもの、ということかもしれない。

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池田秀一の「三倍速く!!シャアが行く!」(池田秀一)

サブタイトルは「~ガンダム人間探訪記~」。シャア役の声優池田秀一による関係者との対談集。初出はガンダムエースの連載。
対談相手は声優が多いが、後半はタレント編・クリエーター編としていろいろなガンダム好きな人たちが登場。知らなかった話も多いし、人によってひいきのシリーズが異なるのは当たり前だが不思議でもある。対談の終盤がいつもいきなり締めに入ってまとめている感じだが、実際はきっともっといろいろしゃべっているのではないか。書籍にするならせっかくだから雑誌で入りきらなかった部分を追加して欲しかった。
福井晴敏とは赤の肖像の朗読劇直前での対談で、朗読劇もそうだがこの対談集は誌面でなくてラジオだったらきっともっとおもしろそう。特に声優どうしの時は。
表紙の安彦良和によるシャアのイラストは貴重かも。
戸田恵子と一時期結婚していたとはびっくり。短期間だったようだが。コナン原作の青山剛昌がなんで出てきているのかと思ったらけっこうなガンダム好きで、FBIの赤井秀一は実はシャアをイメージしていて、声も池田秀一が当てたのだとか。
作家ではUC原作の福井晴敏とAOZを書いた今野敏が登場。野沢那智が亡くなったことは触れているがブライトの鈴置は普通に鈴置君呼ばわり。声優仲間での呼び方がそれぞれ愛称なのが業界らしい。

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ヨコハマB-side(加藤実秋)

ヨコハマとタイトルにあるが、中華街もみなとみらいも出てこなくて、西口のビブレ前広場を共通の舞台に少しずつかぶる登場人物たちの連作短編。
横浜らしさはないどこにでもあるような繁華街だが、それでいて確かにあの場所らしい仕上がり。登場人物の重なり具合が絶妙。ラストでは一堂に会する。
パニッシャーという全体を通しての謎を敷きつつ、個々の話をまとめていて、なおかつ実は最初の短編にそのパニッシャーの正体である人物も描かれている。
埼玉からのコンプレックスが書かれる一方で市内での区ごとのヒエラルキーのようなものも描かれてあるあるな感じ。
最初の一編が2004年10月号の雑誌で残りは2007年から2008年にかけて。もう少し古いかと思っていたが案外最近。
お笑いコンビのキャラクター漫才に受けた。キティ姐さんやらピングーやらリラックマやら。スヌーピーは出ないが。

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