こち亀の小説版。といってもノベライズというわけではない。作者の顔ぶれを見れば分かるとおりけっこう豪華な作家陣によるコラボ短編集。それぞれ自分の作品の登場人物と両さんをあわせたりもしていて、それぞれの作家のファンなら見逃せない。一番原作の雰囲気に近くて漫画的だったのが京極作品。また逆に今野作品は原作とは雰囲気自体は全く離れていていかにも今野作品でありながら、そこに描かれているプラモデルのディテールはまさにこち亀的。正直つまらなかったのは逢坂作品。御茶ノ水署のシリーズ自体がおもしろくないが、それとのコラボのこの作品も案の定。以下各作品について。
まず大沢在昌「幼な馴染み」。最近あちこちで書いている鮫の短編。こち亀の世界というよりは鮫の作品世界に両さんをゲストで招いたような書かれ方になっている。しかし藪の意外な一面などが露わになって、いつもいっていたことが実は与太だともばれる。ただ鮫の世界で新葛飾署という言葉はやはり違和感があった。署名を出さない書き方もあったはずなので惜しい。
続いて石田衣良の「池袋⇔亀有エクスプレス」。石田作品は実は読んだことがない。なのでこれが初。ドラマにもなっていたIWGPシリーズのキャラクターということだが、当然それも知らない。タイトルが内容と一致していないように思えた。舞台はずっと池袋。原作者による挿絵が各作品に添えられているが、池袋の風景にいる両さんというのが絵柄として新鮮。
次が今野敏「キング・タイガー」。今野敏といえば安積警部補シリーズやSTシリーズ、それに隠蔽捜査も2作目が出たように警察小説を多く書いているが、今回はそういったキャラクターは登場しない。しかし視点は方面本部管理官まで勤めて退官したノンキャリアとなっていて、地域課の交番勤務と伝え聞いた両さんに密かに対抗心を燃やしたりもする。語り口は今野作品らしく落ち着いたもので、上にも書いたようにこち亀の世界とはかけ離れているが、戦車の模型を作る過程の緻密な描写は、とことんマニアックにテーマを掘り下げるこち亀と通じるものがある。なお両さんが登場するが、語り手と面と向かってはいない。
そして柴田よしきの「一杯の賭け蕎麦」。掛け蕎麦ならぬ賭け蕎麦。作者もRIKOシリーズで警察小説を書いているが、ここでは元警官で無認可保育園園長の花ちゃんこと花咲慎一郎が登場。拉致まがいに両さんのいる交番に連れてこられて、なぜか激辛蕎麦の早食いに挑戦する破目になる。展開的には漫画っぽくてこちらは花ちゃんがこち亀の世界に連れてこられたようなイメージ。
次が京極夏彦の「ぬらりひょんの褌」。冒頭に例によって妖怪のイラストが添えられていて、中野の街を寺井とともに訪れた大原の視点が語りだしこそ京極作品っぽいものの、こち亀ファンならではの細かいネタが散りばめられて、雰囲気的には原作にもっとも近いと感じた。大沢氏の鮫は版元にかかわらず登場するが、京極氏は版元にかなり配慮している様子。集英社だからとどすこいのキャラを前面に出し、それでいて中野の古書店主というどう見てもあの人ははっきりとは書かない。しかし不思議はないといっていて、確かに解決はするのだが、存在そのものが不思議といってもいい相手な気もする。
逢坂剛の「決闘、二対三!の巻」は、上にも書いたが面白くない。今回の作家陣の中では一人年齢のいっている逢坂氏だからセンスが古いのかどうかは分からない。氏も百舌シリーズに始まり、この御茶ノ水署シリーズや禿鷹シリーズなど警察小説を書いていて、その御茶ノ水署に両さんと麗子が研修にやってくるという設定。解説で亀有トリオと凸凹コンビと書かれているが、これは逆。御茶ノ水署側がトリオ。
最後が東野圭吾の「目指せ乱歩賞!」。賞金の額に目の色を変えた両さんが乱歩賞を目指してあの手この手で暗躍(?)する。話のテイストや展開的にはノベライズかのようにこち亀チックだが、どうせならもっと掘り下げて舞台裏までばらしてみて欲しかった。やたらとマニアックなところまで掘り下げるこち亀のレベルまでは行っていない。