カテゴリー「2.警官小説」の記事

蒼の悔恨(堂場瞬一)

鳴沢シリーズの著者による横浜を舞台にした刑事が主人公の小説。警察小説かというとちょっと違う。現に主人公の真崎が、警察官というより刑事、と評されている箇所があった。しかしこの真崎のセリフがいちいち軽薄で(軽妙ではなく)、読んでいるとだんだんいらいらしてくる。真崎が話す相手にもときどき不快感を与えているほど。
横浜が舞台ではあるが、街としての横浜が描かれているかというとそれも疑問。確かに地名はいろいろと出てはくるものの、街の空気といったものが全く感じられない。やたらと雨ばかりというせいでもないだろう。ちなみに所轄署の名前は実在のもので、そのへんはすべて架空の署名だった鳴沢シリーズとは世界が異なるのかもしれない。
真崎が一度即席のペアを組んで連続殺人犯に怪我を負わされたときの相手が元町の宝石店の娘という設定は強引。プラネットとして出てくるが、スタージュエリーがモデルなのは明らか。この相手との関係の変化も、読んでいてなんだそりゃ、という内容。
タイトルと内容がいまひとつつながらないが、文庫カバーの紹介文と実際の内容もどうも微妙に食い違った。
舞台の地図はこちら

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廃墟に乞う(佐々木譲)

てっきり長編小説だと思っていたので目次を見て短編小説集と分かったときは意外だった。
昔ある事件でPTSDになり休職している道警捜査一課の刑事が主人公。名前になんとなく聞き覚えがある気がしたが、作者の他の道警シリーズに出てきたわけでもなさそう。気のせいか?
休職中なので捜査の権限もないし、警察手帳も持っていないが、警察と名乗るのは詐称には当たらない、と自分に言い訳しつつ聞き込みをしている。
短編だからか、地元の所轄に示唆を与えるまでで、その後の解決までの展開は省かれているものが多かった。
舞台はニセコや帯広ははっきり書かれているが、夕張に近い廃墟のような街や、オホーツク海沿いの漁港の街、日高の牧場のある街はどことは書かれていない。その場所の雰囲気というか空気感はよく描かれている。駐在シリーズでも志茂別といういかにもありそうで実在しない名称の街が舞台だったので、この作者のやりかただろう。
タイトルの付け方は表題作だけぬきんでている印象。他はわりと平凡。

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暴雪圏(佐々木譲)

帯に「超弩級の警察小説」とあるが、これは警察小説とは呼べない。著者のやはり道警を描いた「うたう警官」のシリーズや親子三代警視庁警察官の「警官の血」はまごうことなき警察小説だが、この制服捜査のシリーズはちょっと違う。むしろ保安官ものと分類できるだろう。大沢在昌の「パンドラ・アイランド」と似た系統ともいえる。
ストーリー自体はリーダビリティ抜群でかなり読ませる。巨大な密室ものといえなくもないが、別にトリックはないし、駐在警官が探偵役になるわけでもない。爆弾低気圧に覆われて交通が遮断した十勝地方で、訳ありの人物たちがひとつのペンションに集まって、という展開。その集まっていくまでの過程が詳細に描かれる。ただ最後のほうは吹雪の収まり同様少しあっけない。もっと引っ張ることもできただろうに。
舞台の志茂別周辺の道路がかなり詳細に書かれているが、帯広の南部にそういう地名は見当たらない。モデルとなる場所もありそうだが、地図と突き合わせてまで読んでいないので特定はできなかった。国道の橋というのがポイントになりそう。
北海道を舞台にした作品を多く書いている著者ならではの作品。

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私立探偵・麻生龍太郎(柴田よしき)

RIKOシリーズのスピンオフ、麻生が主役の第二弾。「所轄刑事・麻生龍太郎」はまだ駆け出しの刑事の頃の麻生の話だったが、今度のはずっと後の、警視庁を辞めて私立探偵となってからの麻生の話。てっきり「聖なる黒夜」より後かと思い込んでいたが、あれよりは後、RIKOよりは前という時系列だと最後に書かれている。ちなみに「所轄刑事」の版元は新潮社だが、あとのRIKO関連はすべて角川。
構成としては中編集といえる。書き下ろしの短いエピローグをのぞくと、4編からなる。タイトルはすべて横文字。どれも麻生らしい展開というか、この人だからこうなった、という流れ。ただ乗っているのが黒のフェアレディというのはずいぶんと意外。
RIKOシリーズは性愛が大きなテーマだが、こちらの麻生のシリーズはごくごく大人しい。本人が同性と愛し合っているのに、そのへんはさらりと流されている。その代わりというか、警察官を辞めてもなお警官魂は変えられない、というようなあたりが描かれている。警官上がりの私立探偵も他にも何人か登場。
なお話としては、30年前のタイムカプセルの捜索依頼の真の目的、心当たりのないセクハラ疑惑を受けた中学の校長、薬局の青年とお互い感じた既視感、指輪を盗まれたという既知の女性弁護士という内容。

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潜入捜査(今野敏)

今年になって出たノベルスだが、実際には91年に「聖王獣拳伝」なるタイトルで出ていたものの改題。編集部がつけたタイトルだったというが、これはあまりに内容からはずれすぎ。確かに伝奇がらみのアクションものという面もあることはあるのだが、タイトルから想像する内容とはかけ離れている。もっとも「潜入捜査」というタイトルからはマフィア組織に警官が潜入するイメージだがそれともまた違う。前の題よりはまだよほど近いことは確かだが。
公廨とかチョウさんとかいう言葉に安積警部補シリーズを連想する。そうでなくてもアクションがらみの描き方は今野作品らしさにあふれている。警察小説かというとやや微妙なところ。
環境庁の外郭団体という環境犯罪研究所というところが主人公のマル暴刑事の出向先だが、いまや環境省。あとがきで作者自ら触れているとおり、91年に「環境犯罪」という発想はなかなかのもの。研究所の所長がコンピュータを駆使しているが、データが入力されなければなんの役にも立たないという見解を述べているのも、当時としては先見の明な気がする。

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長き雨の烙印(堂場瞬一)

鳴沢シリーズの作者による作品。だがこれは警察小説と呼ぶにはちょっと弱い。確かに3人の視点でそれぞれ語られるうちの一人が刑事だが、それほど警察組織や捜査を描いてはいなかった。
テーマは犯罪の加害者や被害者の人権といったところだろうか。冤罪を訴える弁護士の視点からも描かれている。
舞台となる街は汐灘という架空の街だが、どうやら水戸がモデルのようではある。太平洋岸に位置することと東京からの距離を考えるとほぼ水戸あたり。
20年前に幼女への暴行・殺害があり、その容疑で逮捕され12年の刑に服していた庄司。この男の内面は窺えない。その高校時代の友人の伊達は県警捜査一課にいる。庄司の冤罪を訴え支援することで自分の名をあげようとしている弁護士の有田。そして20年前の事件で娘を失い、今は輸入車販売業で成功している桑原。この3人の視点で交互に描かれる。最初はそれぞれの接点はないが、次第にクロスし始めクライマックスへ。ときどき章の最後に真犯人によるモノローグが入っており、その正体は最後の最後に判明した。確かにそれは予想していなかったが。

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退職刑事(永瀬隼介)

旧式の手帳を真似たらしい装丁。5編の短編集だが、表題作以外は警察関係かタイトルからは読み取れない。結局全て警察官か退職した警察官が主役だった。警察小説といえるかは微妙なところもあるが、すべて警官小説ではある。
舞台となる土地は明示されていないほうが多い。水戸のほうかなと推測できるものもあれば、世田谷とはっきり書かれているものもあるが、他はどこともつかない。
本のタイトルは退職刑事だが、現役が主役のものもある。女性教師との一対一の心理戦のような作品もあった。設定が最初は明かされないまま話が展開するものが多く、さらにどんでん返し的なところも少なくない。なかなか密度の濃い作品集。谷崎潤一郎や遠野物語を効果的に使っていたりもする。
最後の作品が特に印象が強かった。ヤクザが三人冒頭に出てくる、と思うともうそこから一種のトリックにひっかかっていた。

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推理小説(秦建日子)

アンフェアというドラマは一度も見ていないが、映画化もされたとかで、それがちょっと警察内の確執もひとつのネタにしているっぽいので、原作を読んでみる。しかし警察小説とはいえないものだった。まあ雪平という個性的な女性刑事を主役にした警官小説というところ。
作者の名前に子がつくので女性かと思ったら実は男性。しかも名前の読みが自分の名前と同じだった。ペンネームなのだろうが。
警察ものというより出版ものと考えて読むほうがむしろおもしろいかもしれない。音羽出版と一ツ橋出版の争いに清秋舎が割って入ろうとしているとか。
ドラマは見ていないが主演が誰かは頭にあったので、つい重ねて読んでしまう。知らずに読むほうが楽しめるだろうが。

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血烙(堂場瞬一)

刑事・鳴沢了のシリーズももう第七弾。そんなに人気があるのだろうか、これ。
今回の舞台はアメリカ。ニューヨーク、アトランタ、マイアミそしてキーウエスト。なんの前置きもなくニューヨーク市警で研修中の鳴沢の様子から始まる。もとの所属についてはこの本では警視庁という程度しか書かれていない。アメリカという舞台で刑事としての鳴沢を動かしてみようという作者の意図を感じる。だが、家族の問題もはらみ、一筋縄ではいかない。
特に英語の言い回しが出てくるわけでもなく、ルビですら英語は使われていないが、いかにもアメリカ人らしいしゃべりかただったりしぐさだったりで、アメリカらしさはよく出ている。アフリカ系アメリカ人とか、アジア系アメリカ人といった言い方がよくでてくるが、黒人とか白人という言い方を避けてこうしているのか、今はこのようにいうのが普通なのか。
前作で優美へのサプライズをにおわせていて、それが今回のニューヨーク市警での研修だが、さらに次があるのかは微妙。続けられるといえばもちろん続けられるし、これでシリーズを終えることもできそう。まあ続くのだろうが。
500ページを超える分量だが退屈はしない。彼女である優美の息子の勇樹がチャイニーズマフィアに誘拐され、その動機がずっと謎だが途中でなんとなく明かされる。そういえば伏線は張ってあった。なんかここ数年よく使われるネタのような気もするが。

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小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所(日本推理作家協会監修)

こち亀の小説版。といってもノベライズというわけではない。作者の顔ぶれを見れば分かるとおりけっこう豪華な作家陣によるコラボ短編集。それぞれ自分の作品の登場人物と両さんをあわせたりもしていて、それぞれの作家のファンなら見逃せない。一番原作の雰囲気に近くて漫画的だったのが京極作品。また逆に今野作品は原作とは雰囲気自体は全く離れていていかにも今野作品でありながら、そこに描かれているプラモデルのディテールはまさにこち亀的。正直つまらなかったのは逢坂作品。御茶ノ水署のシリーズ自体がおもしろくないが、それとのコラボのこの作品も案の定。以下各作品について。

まず大沢在昌「幼な馴染み」。最近あちこちで書いている鮫の短編。こち亀の世界というよりは鮫の作品世界に両さんをゲストで招いたような書かれ方になっている。しかし藪の意外な一面などが露わになって、いつもいっていたことが実は与太だともばれる。ただ鮫の世界で新葛飾署という言葉はやはり違和感があった。署名を出さない書き方もあったはずなので惜しい。

続いて石田衣良の「池袋⇔亀有エクスプレス」。石田作品は実は読んだことがない。なのでこれが初。ドラマにもなっていたIWGPシリーズのキャラクターということだが、当然それも知らない。タイトルが内容と一致していないように思えた。舞台はずっと池袋。原作者による挿絵が各作品に添えられているが、池袋の風景にいる両さんというのが絵柄として新鮮。

次が今野敏「キング・タイガー」。今野敏といえば安積警部補シリーズやSTシリーズ、それに隠蔽捜査も2作目が出たように警察小説を多く書いているが、今回はそういったキャラクターは登場しない。しかし視点は方面本部管理官まで勤めて退官したノンキャリアとなっていて、地域課の交番勤務と伝え聞いた両さんに密かに対抗心を燃やしたりもする。語り口は今野作品らしく落ち着いたもので、上にも書いたようにこち亀の世界とはかけ離れているが、戦車の模型を作る過程の緻密な描写は、とことんマニアックにテーマを掘り下げるこち亀と通じるものがある。なお両さんが登場するが、語り手と面と向かってはいない。

そして柴田よしきの「一杯の賭け蕎麦」。掛け蕎麦ならぬ賭け蕎麦。作者もRIKOシリーズで警察小説を書いているが、ここでは元警官で無認可保育園園長の花ちゃんこと花咲慎一郎が登場。拉致まがいに両さんのいる交番に連れてこられて、なぜか激辛蕎麦の早食いに挑戦する破目になる。展開的には漫画っぽくてこちらは花ちゃんがこち亀の世界に連れてこられたようなイメージ。

次が京極夏彦の「ぬらりひょんの褌」。冒頭に例によって妖怪のイラストが添えられていて、中野の街を寺井とともに訪れた大原の視点が語りだしこそ京極作品っぽいものの、こち亀ファンならではの細かいネタが散りばめられて、雰囲気的には原作にもっとも近いと感じた。大沢氏の鮫は版元にかかわらず登場するが、京極氏は版元にかなり配慮している様子。集英社だからとどすこいのキャラを前面に出し、それでいて中野の古書店主というどう見てもあの人ははっきりとは書かない。しかし不思議はないといっていて、確かに解決はするのだが、存在そのものが不思議といってもいい相手な気もする。

逢坂剛の「決闘、二対三!の巻」は、上にも書いたが面白くない。今回の作家陣の中では一人年齢のいっている逢坂氏だからセンスが古いのかどうかは分からない。氏も百舌シリーズに始まり、この御茶ノ水署シリーズや禿鷹シリーズなど警察小説を書いていて、その御茶ノ水署に両さんと麗子が研修にやってくるという設定。解説で亀有トリオと凸凹コンビと書かれているが、これは逆。御茶ノ水署側がトリオ。

最後が東野圭吾の「目指せ乱歩賞!」。賞金の額に目の色を変えた両さんが乱歩賞を目指してあの手この手で暗躍(?)する。話のテイストや展開的にはノベライズかのようにこち亀チックだが、どうせならもっと掘り下げて舞台裏までばらしてみて欲しかった。やたらとマニアックなところまで掘り下げるこち亀のレベルまでは行っていない。

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