カテゴリー「3.ミステリー」の記事

検察捜査(中嶋博行)

乱歩賞受賞作ということで読んでみたが、とりたてて面白いということもなかった。つまらないわけでもないのだが。めりはりに欠けるというか盛り上がりが今ひとつというか。そこは新人の作品だから仕方ないのかもしれない。
収穫は主人公が横浜地検の検事であるために、日本大通り付近が何度も舞台として登場していた点。地検の建物が何度も出てきて、そこから見える県庁越しに見える県警や開港記念会館も何度か描かれる。ただ、みなとみらい線がまだ開通していない時点で書かれているのにそれを無理やり取り込んだのか妙な記述があるのが残念。大倉山からの私鉄がJR新桜木町駅の手前で市営地下鉄に乗り入れる、という点。桜木町駅には「新」などつかないし、みなとみらい線は市営ではない。

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さまよう薔薇のように(矢作俊彦)

期待通り全編横浜が舞台のハードボイルド。ただもともとは84年の刊行だけあって、描かれている横浜も80年代のようで、今とは異なる部分もある様子。本町通りがよく出てくるが、そこに警友病院や県警本部があったりする。なので初読ということもあって場所の特定は見送った。税関前のバーとかニューグランドの裏のホテルとか位置を絞り込める手がかりのある場所は少なからずありそうではあったが。
また、しゃれた、というかユニークな比喩が満載。海外のミステリーのようでもあるが、翻訳の分かりづらさはもちろんない。言い回しがまたユニークな部分が多く、そっちに気を取られて話の内容があまり頭に入ってこないこともあった。
主人公は元検察事務官で、今は58台の車を夜まで動かして駐禁を免れさせてやるという仕事。なかなかもてる様子。警察官は細貝というタワシ髭で輸入業のアルバイトに精を出す巡査が一人毎度登場。

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罪深き海辺(大沢在昌)

週刊誌連載時のタイトルがすごい。なんと「ゾンビシティ」だそうだ。作者の昔の作品にはゾンビものもあるので、その手のものかと思ってしまう。改題で逆に格調高そうになりすぎている気もするが。
内容的には作者の作品によくあるタイプの、ややこしく入り混じりながらも展開が急で先へ先へと読んでしまい、読み終えてみるとあまり内容を覚えていないというもの。まぁエンターテイメントとしてはそれが正しいありかたともいえる。
話の舞台は山岬市というところで、特にどこがモデルというものでもなさそう。つまりどこにでもあるような話として書きたかったのだろう。個人的には和歌山あたりかと思って読み進めていたが、東京まで車で3時間くらいでいける場所らしい。ちなみに新宿署も出てくるが鮫島はもちろん生活安全課も出てこない。それより主人公の干場の親戚の家というのが横浜市保土ヶ谷区だというのが気になった。
珍しく三人称多視点型で、特に干場が実際何を考えているのかが分からない。これはわざとなのだろう。
話自体は破綻間際の自治体、地元のヤクザ、リゾート開発を隠れ蓑に進出を図る指定団体、地元の老刑事らがそれぞれの利害の対立なとでいろいろ絡んで展開する。けっこうばたばた人が死ぬところも作者の作品らしい。

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月光(誉田哲也)

タイトルと装丁から清純な青春小説かと予想したら大違い。文庫カバーの紹介文の「覗いてはならなかった姉の秘密が」というのはまぁ合っているといえる。学園ものではあるが、けっこう展開はダーク。
事故死した姉の死の真相を知りたくて、姉と同じ高校に入り写真部に入部した結花。その姉を家とも学校とも離れた朝霞でバイクで轢いたとして少年鑑別所に入っていた菅井。そして学園の音楽教師羽田。この三人の視点でストーリーは進んでいく。もっとも、結花のみ現在、他の二人は回想といった形で死んだ涼子とのことを語る体裁だが、終盤には時制が一致。語り口を明確に区別しているので誰の視点かは明解。また、話の展開が読めずリーダビリティは十分。序章の人物が誰なのかとか、実際に事故だったのかというのでひっぱるミステリー要素もある。
警察小説も多い著者だが、事故で片付けられたのは朝霞署による初動捜査ミスとしており、ただ状況からはそうなるのも仕方ない。後に埼玉県警の捜査一課の刑事を登場させて真相を解明してみせる。
舞台は赤羽や川口、朝霞など埼玉と東京の境界付近が多い。

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犯罪小説家(雫井脩介)

舞台となり肝ともなるのが多摩沢という街だが、これが現実のどこかを示しているのか全くの架空なのかよく分からない。どこかを示しているとしてそれを踏まえて読めればまた違う印象かもしれないが、それにしても終盤の展開はあまりに強引。
よってこの本の肝は、脚本家小野川の偏執的な思い込みに恐怖し辟易する作家待居の心情というところにあるといえる。主に前半部分。途中からこの待居とは別にノンフィクションライターの有泉という女性が登場してそちらの視点での描写が続く。このあたりから作品のテーマが自殺サイトないしは自殺そのものになってきている気がする。
いずれにせよ最後まで読んで唖然というかけっこうがっかりしてしまった。ネタバレなのでなぜかは書かないが。

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告白(湊かなえ)

興味はあったがいつのまにか本屋大賞とかもとって、図書館では当分まわってこなさそうだった本。地区センターの図書室で見つけて早速借り出す。
確かに問題作ではある。出だしからすると教職ということがテーマのようだが、むしろそれは二次的な問題。この本全体のテーマは母子関係だろう。
最初の章で長々と独白している女性教師も、愛娘を学校で事故とされる殺人で失ったからこそこういった行為に出たわけだし、犯人である二人の少年もその母子関係ゆえに、負の連鎖ともいえる展開に突き進んでいく。少々極端なようで、実際にいくらでもありそうな母親とその子ども。
章単位で独白だったり、日記の引用だったり、あるいはウェブサイトへの記述だったりはするが、基本的に異なる視点の一人称でそれぞれ完結している。しかしその章題がどうにもそぐわない部分が多い。無理やり○○者で統一しているために造語感がありあり。

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着ぐるみデパート・ジャック(水田美意子)

タイトルと装丁に引っかかってちょっと読んでみたが、正直今ひとつ。
読点の位置のせいかどうもリズムが悪くて読みづらい文体。舞台は大阪なのだが関西弁をしゃべると登場人物が一人もいないのには、黒川博行読んで出直して来いといいたくなる。また警察や自衛隊の癖のある人材がそこにいるのもご都合主義的だし、逆に元傭兵のマスターが現場にいながら結局なにもしないのも無意味。
そもそも着ぐるみ姿で立てこもることに意味がないし、デパートであるのも作中の犯人の意図というよりはエレベーターのトリックを使いたい作者の都合である気がしてならない。
と、ぼろくそに思って読み終えた後で作者プロフィールを見て印象が一変した。1992年生まれ、とある。この本の刊行が今年なので16歳が書いたってことか?! とすればむしろたいしたものだ、と評してもいい。
現場突入の際の緊張感などなかなかよく書けているし。
現場はグランディア大阪・大丸梅田店そのものであり名前を変えてはいるが、周囲の阪神百貨店やヨドバシ、曾根崎警察署は実名で登場。巻頭にエレベーターの位置などを示した簡略図あり。

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冥都七事件(物集高音)

近代建築の時代が舞台の小説を読んでみようと手にとった。さすがに建物はほとんど出てこないものの、短編7編はそれぞれ帝都東京のどこかを舞台にしていてその場所と事件のかかわりも浅くない。扉ページにそれぞれ当時の地図も載っている。タイトルの頭に大東京三十五区とつくだけある。なおこの本で舞台になっているのは、品川、大崎、三ノ輪、向島、根岸、飛鳥山、日比谷。
主な登場人物は早稲田の貧乏書生のちょろ万こと阿閉万(あとじよろず)と、その下宿の大家である仙人のようなご隠居の玄翁先生こと間直瀬玄蕃(まなせげんぱ)。変わった名前なのでなにか隠された意味でもあるのかと思うが分からない。
要は安楽椅子探偵ものなのだが、解説で明快に語られているように時代背景をうまく活かしている内容。最初は〜で、という文体や体言止めの多さに読みづらく感じるものの、しばらくして慣れてくると苦にならなくなる。語呂をよくしてあるのか言葉の調子はいい。
続編もあるようで、すぐに続けてとは思わないものの気が向いたらそちらも読もうかとは思う。

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終末のフール(伊坂幸太郎)

世界が3年後に滅ぶ、という状況での仙台近郊のヒルズタウンという住宅地にあるマンションの住人たちを描く連作短編集。最後の作品では2年後になっているとおり、作品内でゆるやかに時間が流れている。
伊坂作品らしさはあるものの、結論からいうとカタルシスはない。状況は変わらない。この作品を書いた意図が分からないが、こういった状況でのいろいろな人のそれぞれの選択を描きたかったのだろうか。
タイトルはそれぞれ「○○の○ール」と統一されている。ヨールとはなんだろうと思ったらちょっと無理があった。
他の伊坂作品との関連は分からなかったが、この本の中ではそれぞれ他の短編に出てくる人物と少しずつ関係したりちらっと出てきたりしている。同じマンションの住人という設定だから不思議はないが。

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翡翠の城(篠田真由美)

サブタイトルに「建築探偵桜井京介の事件簿」とあるようにシリーズもの。これが第三弾。前2作には登場しなかった神代教授がイタリアから帰国して冒頭から登場。またこれが個性的なキャラ。下町育ちのべらんめえ調が職業や見た目とのギャップ大。
ストーリー的には一族支配が続く名門ホテルでの内紛がテーマだが、建築的なテーマは下田菊太郎。戴冠様式のことなどがじっくり語られる。しかし奥日光の丸沼の奥にある碧水閣というのが架空の建物だからそれは仕方ないとして、作中に登場する実在の建物は写真なりイラストなり見たいところ。文章だけではいくら描写されたところでイメージが涌きにくい。クラシックホテルとして富士屋ホテルやニューグランドの名も出てくる。
全体にやや冗長。もう少しシンプルに短くまとめてもよい。中だるみするわけでもないし、キャラ読みする人には余計そうな部分こそいいのかもしれないが。

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